2006年03月27日

サヨナラ、夏の日々。#end

「人生、楽しまなきゃ。考えすぎは良くないわ。
 人間ってさ、一瞬先は何が起こるかわからないから。」

その言葉が頭の中をグルグル巡る。
ある意味で自分は余計なことを
考えすぎなような気もするし、
かといって、
御気楽なエピキュリストになるのも
気が引けている自分がいた。
ただ、毎日を充実させていくことの大切さ、
みたいなものは共感できる。

現実を直視できなくなるとき、
やはり誰もがどこかに救いを求めたり、
時には逃避をすることもあるだろう。
でも、それだけでは状況は変わらない。
がっつりその現実と対峙しながら、
そこに立ち向かわなければ、
一向に状況は変わらないのだから。・・

「あなただって、次の瞬間、自分の身に何が起こるか、
 分からないでしょ?」

と、彼女はまた、意味深な言葉を投げかけると、
また不思議な微笑を私に投げかけた。

自分はその微笑にどのように答えていいかわからず、
ただただ、頷くだけしかできなかった。


・・すっかり時間が過ぎていて、陽は傾き始めていた。
「帰りはどうする?」
ふと私は帰りの時間を気にしはじめた。
壁にはバスの時刻表があった。
あまりバスの本数も無いので、
そろそろ時間を気にしないといけない。

ふと、バスの時刻表のなかに、
意外にも「羽田空港行」という文字をみつけ驚く。
ここは千葉のど真ん中。どう考えても、そのルートが思い浮かばない。

そう、東京湾を横断するアクアラインの存在を思い出すまでは。

私はアクアラインを通ったことがなかったので、
このバスに非常に魅力を感じた。
また千葉市内を通過して、会社の近くを通って帰るよりは、
気分のいい海の中を突っ走ったほうが、気持ちがよいだろう。
そう思って、バスの時刻をみると丁度いい時間。
足早に彼女に別れを告げると、私はバス停へ急いだ。

バスはほどなく来た。
いわゆる空港バスだ。快適そのものである。
バスは木更津に向かうと、
いよいよアクアラインである。


と、そのとき、事件はおこった。
・・私のお腹が、急にゴロゴロと鳴り出したのである。
「そんな馬鹿な・・・」
突然の腹痛に、額からは脂汗が流れた。
時間をみると、まだ空港までは時間がある。

周期的に訪れる痛みの間隔が次第に短くなり、
その終末の時が近いことを知らせていた。
伸びやかな景色をみながら、バスの乗客は
非常にリラックスした表情をしている。
自分ひとりが、なぜ?という気持ちがさらに
腹痛に拍車をかける。
イチゴミルクか?
彼女の不思議な微笑が、また脳裏をよぎる。

私は意を決して席を立つ。
ユックリと、運転手に近づく私を、
乗客が不審と恐怖の目で追いかけるのが見えた。
いや、自分はバスジャックなどする奴じゃないよ・・

「す、すいません、と、トイレは・・」
「我慢できませんか?あと少しなんですけど。」
「だ、だめです...」

と、小声での会話が終わると、運転手さんはマイクで
乗客全員に、大声で語り始めた。

「え〜、お急ぎのところ、申し訳ありませんが〜。
 このバスはうみほたるに臨時停車します。
 おトイレ、我慢できないかたがいらっしゃいますので〜・・・」

恐怖に慄いた乗客の目が、一瞬、嘲笑の目に変わる
瞬間を、私は目撃した。

・・・サヨナラ、夏の日々。・・・

(了)
posted by drag_on at 01:32| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月26日

サヨナラ、夏の日々。#2

「あんた・・いい耳してるね。」

不意打ちにあった私は思わず仰け反ってイスから落ちそうになった。

不覚だった。
私が時間の止まっているこの空間と、
その中でただ一人黙々と店番をする彼女を、
半ば好奇の目で見ていた私は、
逆に平日の昼下がりにスーツ姿でかき氷を食らう珍客を
サリゲナク観察する彼女の視線に気がつかなかったのだ。
普段の仕事の緊張から解放された私は、
どことなく懐かしさを感じさせる空間と相まって、
ほとんど素の状態をさらしていたに違いない。

私は改めて彼女の眼を見つめた。
既視感のある眼だった。
今まで、何千、いや何万という数の客と接したであろうその眼には、
相手の気持ちを瞬間に読みとる能力だけでなく、
多分自己の経験に裏打ちされた、深い慈悲の心も感じさせた。

私は体制を整えると、こう答えた。
「いや〜、そういわれ続けてずっと育ちましたけど、どうなんですかね?」

彼女は全てを了解した顔を一瞬見せた後で、ただ微笑んだ。

カキ氷を食べ終わる頃には、
旧式のテレビから流れる
遥か昔の退屈なドラマの再放送も終わり、
ニュースの時間となっていた。

突然キャスターが凶悪犯罪の発生を告げる。
犯人は若者だった。

「ばからしいよねぇ。」
彼女はそう呟きながら、後片付けを進める。
相手に同意を求めるでもなく、多分独り言の
呟きに近いものだったのかもしれないが、
自然と、私は「そうですね」と返答をしていた。

「つまらないことしてさぁ。最近、後先考えないで
 自分の都合ばかりを廻りに押し付ける人が多いよね。
 その究極の姿がこれよ。・・」

彼女は吐き捨てるように言った。
私はちょっと返答に躊躇したが、
また、「そうですね」と返答をした。
やる気のない返事に
彼女は少し苛立ったのかもしれない。

「あなたって、堅い職業なのね!」

「いえいえ、イツモは結構ぐずぐずですよ。
 今日は役所へ書類の提出があったから、
 こんな堅い格好してますけどね。」

と、慌てて打ち消す私。

「社会との関係性をあまりお勉強せずに、
 大人になってしまう人が多いですよね。
 そこでハタと自分に気がついたらついたで、
 無理やり関係性をとりつくろうとして、
 そこでまた軋轢を生んでしまう。
 ・・自分もそうなんですけどね。」

彼女はその言葉を聴くと、
また微笑みを浮かべて、こう続けた。

「人生、楽しまなきゃ。考えすぎは良くないわ。
 人間ってさ、一瞬先は何が起こるかわからないから。」

そう、彼女は私の奥底に眠っている本心を掘り当てたのだ。

「そうですね」
相変わらず、そっけない返事を返した私であったが、
彼女はその裏の心の揺れを嗅ぎ取ったようだった。

つづく
posted by drag_on at 05:49| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月25日

サヨナラ、夏の日々。#1

※特にネタが切れているわけではないのだけど、
保存していた某所の昔の日記を久しぶりに見返して、
多少構成しなおしてみました。落ちは一緒ですが。・・
もう早いもので、一昨年の夏の話になります。


夏の暑い頃。
とある仕事のプロポーザル書類提出のあと、
私は会社をサボって、千葉県の中央にある、とある観音さんに向かっていた。
自分自身は、特に信仰とか、そういった類の動機からでもなく、
また新規の仕事獲得のお願いをしに行った訳でもなかった。
仕事の結果といえば、案の定予想通りの他社にもってかれたから、
今考えれば観音さんにお願いしてもよかったのかもしれない。

私は日本建築のなかでも、崖や急な斜面に建てられる
「懸崖造り」という建物に興味があり、
全国のそういった建物を観て廻るのが自分的には大好きなのだ。
有名どころでは京都の清水寺や東北の山寺。
大分や鳥取にも有名な建物がある。
実はそれ以外にも全国各地に無名の建物がたくさんある。
この千葉の観音さんは、どちらかといえば有名なほうで、
日本建築の教科書にも出てくる位なのだが、
何分東京の西に住んでいる私にとってはすこぶる不便な場所で、
仕事で千葉へ出る時でないとなかなか行こうという気力が湧かなかったのだ。

それでも千葉市内から一時間ほど。
当日も暑いなかの移動。
しかし、やっとのことでたどり着くと、
そこにはなんと、修理中でシートに覆われた本堂が。・・・
それまで我慢していた汗がどっと吹き出した。
一応、中はじっくり拝観できたので志半ばというところか。

拝観を終えると、本堂の脇にお茶屋さんが目に入った。
中では初老の婦人が一人で店を切り盛りしていた。

ふと目に入るイチゴミルクのかき氷の看板。

ゆっくりと流れる時間。いや、昔のある時点で時代が止まっているようだ。
やや新しい冷蔵庫がカウンターの奥に見える他には、
この店のなかで今が平成であることを証明できるものは何一つ無かった。
昔どこかで見たことのある旧型のテレビからは、
普段見慣れない、昔のドラマの再放送が流れていたし、
店の広さに対して不釣り合いな大きさの手回し式かき氷製造器は、
遠く自分の幼少の微かな記憶さえ刺激した。

ふらふらと私は店の中に入った。

極めつけはこの店の主たる彼女の風貌であった。
これまた時代を特定することができない服と髪型。
しかし微笑みを浮かべる彼女の仕草は、どこと無く今風であり、
それがますます暑さで朦朧とした頭のなかで混乱を引き起こす。

その頭を振りながら、私はそれが当たり前であるかのように、
イチゴミルクを注文した。
彼女は黙って冷凍庫から円柱の氷を取り出すと、かき氷製造マシンにセットした。
その仕草があまりにもコンクリートのテストピースを潰す試験に似ていたので、
急に笑いがこみ上げた。我ながら、壊れ具合は最高である。
そんな私を察知したのか、彼女は私に背を向けながら、
微笑みを浮かべたような気がした。

そしてゆっくりハンドルを廻し始めると、
なんとも柔らかく、繊細な氷の切片がガラスの器を満たし始める。
瞬く間に山盛りのかき氷が出来上がると、
彼女はそこに、赤いシロップとミルクをかけ、
静かに私の前に差し出した。

私は歓喜のあまり、「いただきます」とつぶやくと、一気に氷を口に含んだ。
ケミカルなイチゴの甘い味が脳天を貫き、しばし至福の時を迎える私。
その姿をじっと見つめていた彼女が、ついに口を開いた。

「あんた・・いい耳してるね。」

つづく
posted by drag_on at 02:16| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月19日

「40 翼ふたたび」

またまた石田衣良の本を読んでいる。
「エンジェル」や「娼年」にみられるような、
全体の構成の巧みさもさることながら、
自分にとっては文体、特にディティール描写の参考の為に
密かに読んでいるバイブルだったりする。

また作品内容においても、彼の作品の主人公に共通する
「何か、超えられない煮え切らなさ」に
魅力を感じてしまう今日この頃。



今回は完全に衝動買いだ。
思えば、40という歳はまるで自分の中にはなくて、
永遠と30代が続くのだと感じていたけれど、
この本に登場する40歳代の人物達の救いがたい現実というのは、
刻々と自分の身にも音を立てて近づいてきている。
つまるところ、答えのない40代にはなりたくないと思いながら、
気がつけばそこにもう両足を突っ込んでいるようなものなのだ。
その独特な作者の世界観は、彼のオリジナルな世界の中に留まらず、
既に社会の枠組みの典型例にさえなりつつある。
40というターニングポイントを控え、自分は一体何をすればいいのか。
そんなことを考えさせてくれる、有難くも迷惑な読み物。
でも、とりあえず買いなのだ。
posted by drag_on at 02:43| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月14日

卒園式

今日は娘たちの卒園式。
昔ながらのワックスがかかった木の床に、
些か黄ばんでくたびれた壁。子供の空間としては何故か高い天井。(判る人には判る?)
そして色紙の飾り付け。
子供の匂いと水槽のカメとワックスの匂い。
子供たちの騒ぎ声も心地よいBGMのようにこだまする。
そしてホンキートンクな疲れたピアノを先生が弾き始めれば、
遠い昔の時間に自分が引き戻されそうで、
急に切ない気持ちに満たされてしまう。

ふと我にかえり、花の香りと花粉の入り交じった外の空気を力いっぱい吸い込んだ。
汚れた自分を再確認する為に。
自然と流れそうになる涙を花粉のせいにする為に。


気付かぬうちに子供は成長する。
普段毎朝接しているつもりでも、友達との接し方が変化している。
多分に演出があると思うのだけど、
卒園証書をもらう際に、一人一人が
「大人になるということは」というお題で発表するのだが、
その各人の一言一言がかわいくもあり、
またハッとさせられることもある。

ちょうど自分のネガとポジの二つの側面を受け継いだ二人は、
明らかに別の角度から自分を映す二つの鏡でもある。
「大人になるということは、
もっと早く走れるようになる、ということ」

「大人になるということは、
小さなことで喧嘩をしなくなる、ということ」

自分も、そうありたい、と思った。
posted by drag_on at 18:24| 東京 ☁| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月12日

初めての確定申告

いよいよ迫って来た提出期限。
でもいまいち税金の仕組みがよくわかりません。
昨晩じっくり家で作業に取り掛かろうとしたところ、
提出書類が足りないことに気がつき敢無く終了。
どうなっとるんや〜。


posted by drag_on at 13:28| 東京 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月09日

笑顔

先週末、久しぶりに長く仕事でお付き合いしている某設備設計事務所の社長さんからメールをいただいた。
社長さんといってもかつて自分が社会人になりたての頃は一緒に某島にサザエを密漁?しに行ったり、
会社帰りに盛り場で徹夜飲みしたり、
どちらかといえば仕事以外の遊びの時間が多かった気がする。
彼の歳は自分と一廻り上で、自分がその当時から歳が一巡したので、
ちょうど遊んでいた頃は今の自分ぐらいの歳だったように思う。
バブルの余韻が残っていた時代とはいえ、
今の自分と比較しても物凄く勢いのある人だった。

そんな彼が世襲でもない突然の引継ぎにより、
いきなり社長になったのが一昨年のこと。
お祝いの言葉をかける以上に、
彼と実務でのお付き合いができなくなることを誰もが惜しんだ。

彼が今の立場になることは、正直昔の自分には想像がつかなかったのだが、
常々一緒に遊んでいるときや、仕事をしていて感じていたことがある。

それはどんな局面でも笑顔を絶やさないことだ。
いろいろな追い込みがかかっても、終始安心感を周囲に与え続けることは、
正直今の自分にとっては難しいことかもしれない。

ただ、こういった日頃の小さな行いの積み重ねが、
単なる社会の処世術という部分を超えて、
人生そのものを豊かにしていくのだと感じたりもする。

彼の近況報告からは相変わらず、ある一定の楽しさが伝わって来ていて、
自分も知らずのうちに元気になったりするから不思議だ。

ここ数年、特に東京に帰ってからの自分を振返ると、
笑顔のない人間になってたな、とつくづく思う。
なかなか急な修正は難しいけど、少し前向きに(笑)日々過ごして行こう、なんて思う今日この頃なのだ。

posted by drag_on at 01:52| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。