2006年03月25日

サヨナラ、夏の日々。#1

※特にネタが切れているわけではないのだけど、
保存していた某所の昔の日記を久しぶりに見返して、
多少構成しなおしてみました。落ちは一緒ですが。・・
もう早いもので、一昨年の夏の話になります。


夏の暑い頃。
とある仕事のプロポーザル書類提出のあと、
私は会社をサボって、千葉県の中央にある、とある観音さんに向かっていた。
自分自身は、特に信仰とか、そういった類の動機からでもなく、
また新規の仕事獲得のお願いをしに行った訳でもなかった。
仕事の結果といえば、案の定予想通りの他社にもってかれたから、
今考えれば観音さんにお願いしてもよかったのかもしれない。

私は日本建築のなかでも、崖や急な斜面に建てられる
「懸崖造り」という建物に興味があり、
全国のそういった建物を観て廻るのが自分的には大好きなのだ。
有名どころでは京都の清水寺や東北の山寺。
大分や鳥取にも有名な建物がある。
実はそれ以外にも全国各地に無名の建物がたくさんある。
この千葉の観音さんは、どちらかといえば有名なほうで、
日本建築の教科書にも出てくる位なのだが、
何分東京の西に住んでいる私にとってはすこぶる不便な場所で、
仕事で千葉へ出る時でないとなかなか行こうという気力が湧かなかったのだ。

それでも千葉市内から一時間ほど。
当日も暑いなかの移動。
しかし、やっとのことでたどり着くと、
そこにはなんと、修理中でシートに覆われた本堂が。・・・
それまで我慢していた汗がどっと吹き出した。
一応、中はじっくり拝観できたので志半ばというところか。

拝観を終えると、本堂の脇にお茶屋さんが目に入った。
中では初老の婦人が一人で店を切り盛りしていた。

ふと目に入るイチゴミルクのかき氷の看板。

ゆっくりと流れる時間。いや、昔のある時点で時代が止まっているようだ。
やや新しい冷蔵庫がカウンターの奥に見える他には、
この店のなかで今が平成であることを証明できるものは何一つ無かった。
昔どこかで見たことのある旧型のテレビからは、
普段見慣れない、昔のドラマの再放送が流れていたし、
店の広さに対して不釣り合いな大きさの手回し式かき氷製造器は、
遠く自分の幼少の微かな記憶さえ刺激した。

ふらふらと私は店の中に入った。

極めつけはこの店の主たる彼女の風貌であった。
これまた時代を特定することができない服と髪型。
しかし微笑みを浮かべる彼女の仕草は、どこと無く今風であり、
それがますます暑さで朦朧とした頭のなかで混乱を引き起こす。

その頭を振りながら、私はそれが当たり前であるかのように、
イチゴミルクを注文した。
彼女は黙って冷凍庫から円柱の氷を取り出すと、かき氷製造マシンにセットした。
その仕草があまりにもコンクリートのテストピースを潰す試験に似ていたので、
急に笑いがこみ上げた。我ながら、壊れ具合は最高である。
そんな私を察知したのか、彼女は私に背を向けながら、
微笑みを浮かべたような気がした。

そしてゆっくりハンドルを廻し始めると、
なんとも柔らかく、繊細な氷の切片がガラスの器を満たし始める。
瞬く間に山盛りのかき氷が出来上がると、
彼女はそこに、赤いシロップとミルクをかけ、
静かに私の前に差し出した。

私は歓喜のあまり、「いただきます」とつぶやくと、一気に氷を口に含んだ。
ケミカルなイチゴの甘い味が脳天を貫き、しばし至福の時を迎える私。
その姿をじっと見つめていた彼女が、ついに口を開いた。

「あんた・・いい耳してるね。」

つづく
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